現場におけるメンタルヘルスケアの有効性

職場におけるメンタルヘルスマネージメント

「労働者の心の健康の保持増進のための指針」、新指針は、「労働安全衛生法第70条の2第1項の規定に基づき、同法第69条第1項の措置の適切かつ有効な実施を図るための指針」として位置づけられています。労働安全衛生法に基づく健康保持増進措置の実施にかかる指針として位置づけられたことで、安全衛生委員会など労働安全衛生法上において規定される資源との連携強化が積極的に求められています。

事業者は、産業医等の助言、指導等を得ながら事業場のメンタルヘルスケアの推進の実務を担当する事業場内メンタルヘルス推進担当を、事業場内産業保健スタッフ等の中から専任するよう努めることが求められています。

メンタルヘルスケアの進め方

1)メンタルヘルスケアを推進するための教育研修・情報提供
 事業所は、4つのケア(セルフケア・ラインケア・事業場内産業保健スタッフ等によるケア・事業場外資源によるケア)が適切に実施されるよう、それぞれの職務に応じ、メンタルヘルスケアの推進に関する教育研修。情報提供を行うものとします。
2)職場環境等の把握と改善
3)メンタルヘルス不調への気づきと対応
 労働者、管理監督者、家族からの相談に対して適切な対応ができる体制の整備。
4)職場復帰における支援


企業にとっての意義

1・労働者の生産性向上

      モチベーションの活性化
      自己実現欲求
      内的な動機付け

メンタルヘルスケアとは、自己実現欲求を援助することにより、組織の経営目標と、個人の生きがいの目標とを統合する、経営の努力です。
メンタルヘルスケアとは、人材を尊重することと、自己理解・他者理解の風土を豊かにすることによる、相互信頼関係づくりといえるでしょう。


2.リスクマネージメント

メンタルヘルスケアが不十分な場合でも、企業経営に損失をもたらすことになり、
リスクマネージメントという視点がいわれています。

 a )仕事の状況が関連し、社員が自殺した場合。
→民事訴訟において、企業の安全配慮義務違反が問われ、1億6千万円の賠償金が払われた。金額だけでなく、企業イメージがダウンする。
 b ) 事故やミスによる損失。
→尼崎市の鉄道脱線事故。業務管理上のリスクともいえる。
 c )経営施策の推進との関連。
→組織の環境の変化(合併・買収、人事異動、リストラなど)
の影響による心身のバランスの維持が大切となる。
 d )組織における反社会的行動の発生。
→セクシャルハラスメント、パワーハラスメントなどの人間関係のトラブル。
また、従業員の動揺、不満、怒りが反社会的行動(組織に対して、あるいは組織成員相互に、害を及ぼしたり、害を及ぼそうとする行為)が経営へ影響を及ぼす可能性がる。

3.セーフティネット

・援助を必要とする時、誰でもが活用できる。
・心身のバランスに対応するだけでなく、心身のバランスを保つための予防。
・積極的な問題解決力の育成
・仕事の課題や進め方
・職場のコミュニケーション
・キャリアの設計
・プライベートの問題
など、気になること、困ったこと、考えたいことなどを、一人で抱え込むことなく、早期に相談し援助を受けることができる。


心の健康問題への誤解

メンタルヘルスは特殊な人の問題であるという誤解

*「心の病」が増加傾向にあると組合員の67%が回答し、心の病による「1か月以上の休業者」がいる労組が63.5%、そして心の病で最も多い疾患として、「うつ病」と回答した労組が82.2%(2003年5月調査)
*休職した教職員の原因疾患では、56.4%がうつ病。(2004年)
*国家公務員がとった1か月以上の長期病欠の原因の1位がうつ病などの精神疾患は29%(2001年)
*うつ病の有病率は2~3%(1000人に対し、20~30名)
*うつ病と親和性が高いとされる病前性格に、自分自身に対する異常に周囲に配慮する、物事の手順や秩序を重視するというものがあり、組織人という観点からは、高い順応性とパフォーマンスを持つ人であるということ。また、過労自殺と認定された人の多くが、
直前まで「仕事ができる人」と評価されており、その7割以上が治療を受けていない。
*労働者のストレス内容で最も多いのは「人間関係の悩み」
(厚生労働省の調査結果から)それは、コミュニケーションのまずさからくるものであり、コミュニケーションの重要性とスキルアップを薦めている。
*すべての人が、メンタルヘルス不全になる可能性がある

職場環境の改善(特にコミュにケーション)や管理監督者が部下の健康管理に配慮することで対応し、メンタルヘルス不全を個人の問題ではなく、「職場のシステムの問題」として捉えることが必要。

経営上はあまり関係がないだろうという誤解

 メンタルヘルス対策を講じても企業の経営上は特段プラスにならないと考える立場も稀ならずみられます。
しかし、メンタルヘルス不全が職場に与える影響は、決して少ないものではありません。ひとたび過労自殺や過労死が発生すれば周囲の勤労者は動揺し、職場の士気低下につながります。また、損害賠償額も決して小さいものではありません。また、メンタルヘルス不良な状態が継続することは、職域のモラルの低下を招き、事故・ミスの発生と隠蔽という非常に大きなリスクを企業サイドとして背負うことにもなりかねません。

 リスクマネージメントとしての重要性
 
 近年の動向として、過労死・精神疾患・過労自殺などによる労災請求及び損害賠償請求の認定件数が飛躍的に増加している。

現在では、メンタルヘルス不全者や自殺者は一定の要件を満たせば労災認定の対象とされる傾向が著名であり、業務と何らかの関連が認められるメンタルヘルス不全事例については、事業者の管理責任が問われる方向へと変化しています。
 こういった状況を受け、事業者・管理監督者は勤労者に業務と密接な関連のあるメンタルヘルス不全を起こさないようにすること、そしてメンタルヘルス不全に陥った勤労者の健康状態が労働により悪化しないように注意することが必要義務とされています。
その際には、事業主や上司は単なる配慮や言葉がけのみでは不十分であり、メンタルヘルス不全の兆候(「事例性」や「通常と異なるおかしさ」)が認められる勤労者については、何らかの業務上の措置(業務負担を減らす、治療に実際に繋げるなど)を実行する義務があると考えられています。
このように、近年ではメンタルヘルス不全については、業務関連疾患、安全配慮義務という観点からは、企業のリスクマネージメントとしてカバーすべき必須項目の一つとなっていると言えます。
同時にCSR(企業の社会的責任)という立場からも、勤労者のメンタルヘルス対策を講じることは、整合的であると考えられます。


その他の誤解

 WHO健康報告(2001)・・・「統合失調症は、様々な経過をたどるが、約3分の1は医学的にも社会的にも完全に回復する初発患者の場合、早期に進歩した薬物療法と心理的ケアを受ければ約半数は長期にわたる完全な回復を期待できる」

メンタル不全は、遺伝性疾患ではありません。その人の病気へのなり易さとストレスを引き起こす環境要因が複雑に絡みあって起こる。これまでの学習や経験などにより、獲得されたストレスの対応力が関連している。また、素質があれば軽度のストレスでもなりうることがあり、素質がなくても強いストレス環境ではなることから、だれでもなりうる疾患であるという理解が根底に必要といえます。
早期の治療的対処(薬を飲むなど)、職場や家庭でのストレスを軽減すること、周囲の適切なサポートやストレス対処法を身につけるなど、が重要となってくるわけです。

このように、メンタルヘルス不全は糖尿病や高血圧症などの生活習慣病と同様に、ライフスタイルを改善したりストレスをうまく処理することにより防ぎうるものです。